私です。左のウサギはラベロットと言います。右は皆さんご存知エースバーンです。
パルワールドのことを考えるのが楽しいです。今日はラベロットの話と、そこから見えてくる、パルワールドがどうやって一体一体に個性を与えてポケモンとの差別化に成功したのかという話と、ゲーフリの凄さはどこにあるのかという話をします。
50時間弱プレイしながら考えていたことをバーっと書いたのでクソ長いです。ごめんなさい。
- 一見するとエースバーンにしか見えないが……
- 「アウト」な見た目に反して意味不明に作り込まれているラベロットの設定
- 同じモチーフであれば似ることを回避するのは難しい
- パルワールドが試みたポケモンとの差別化戦略
- 拠点というシステムによってキャラクターに更なる個性を持たせる
- 作業の強いキャラは後半ほど手に入る、が……
- 全キャラに愛着を持たせるには、「平等」なんて無い方が良い
- IPであるという都合から同じことがポケモンでは出来ない、そしてゲーフリの本当の凄さがどこにあるのか
- ゲーフリが本気で心配になる株ポケの声明
一見するとエースバーンにしか見えないが……
パルワールドで恐らく最も「アウト」なキャラクターはラベロットである。
ボルトラのしっぽはまだパロディや露悪的な冗談で済むかもしれないが、ラベロットは一見するとマジで冗談抜きのアウトに見える。どうやってもエースバーンにしか見えない。私も初見ではそう思った。
だけど実際にゲーム内でラベロットを詳しく見てみると、どうもラベロットというのは「アウト」を狙って作られたキャラクターでは全くなさそうだということが分かる。パルワールドにおける「個性」の演出について、まずラベロットをじっくり見ることから話を始めたい。その後でどうしてこんなに似ることになってしまったのか考えて、最後に改めてパルワールドが取った全般的なキャラクターの差別化の方法について詳細に見ていく。
「アウト」な見た目に反して意味不明に作り込まれているラベロットの設定
ラベロットをよく観察して最初に気付いたのは、立ちポーズが全く違うことだ。エースバーンがサッカー選手をモチーフとしているのに対し、ラベロットはファイティングポーズを取っていてどうにも格闘家のようである。無骨な立ち方はエースバーンのスラっとしたポーズとは対照的である。
実際に動いているところを見てみる。参考動画を置いておいた。(※元から画質が良くない上に、スマホからは恐らく正常に見れない。申し訳ない。あと私が回避ヘタクソなのは許してほしい。)
ラベロットの攻撃モーションを見ると、春麗のような動きをすることが分かる。どうやらこのキャラは立ちポーズの通り、脚を主体とした格闘家のようだ。既にキャラとして独自性があると思うが、どうしてシルエットだけエースバーンに似る必要があったのだろう。
ここで図鑑説明を見てみると、ラベロットというキャラクターの印象は一層エースバーンと違って見えてくる。「走ること」がラベロットというキャラの特徴らしいことが分かる。これは脚を主体とする立ちポーズや攻撃モーションとも整合する。
また、パートナースキルには「プレイヤーの移動速度上昇」という(恐らくゲーム中唯一の)能力が設定されている。これも「走る」というという特徴を考慮しての設定だろう。
しかも、プレイヤーの移動速度上昇はゲーム的にはほとんど意味が無いため完全な死にスキルである。キャラ設定を反映するためだけに意味のない専用スキルがわざわざ実装されていることになる。
トドメに、ラベロットが出現する専用エリアの名前は「神速の封域」である。要するに走るのがむっちゃ速いからこういう名前がついているわけだ。
ラベロットに関わる設定はとにかく足が速いキャラなのだという点で気持ち悪いくらい一貫していて十分過ぎるくらいキャラが立っている。露悪的な点も何一つ見られない。
どうしてよりによってこのキャラが見た目「だけ」エースバーンに似ているのだろう?
ちなみにラベロットのゲーム上の扱いをもう少しだけ深堀りしておくと、ラベロットはかなり後半に登場するボスキャラクターであり、タイミング的にも演出的にも「ポケモンっぽさ」を今更アピールする意味が全く存在しない。神速の封域付近に生息するモンスターも、ゲーム終盤であるが故にパルワールドの世界観が強くなっていてポケモンライクな馴染みやすい画風からは離れたキャラが多くなっている。
実に不思議だ。
立ちポーズも、モーションも、図鑑設定も、固有パッシブも、出現エリアも、何もかもが独自性をもって十分練り込まれている。それなのに、不自然なことにラベロットは見た目「だけ」がエースバーンに似ている。
そういえば、こんな見た目なら露悪的な宣伝にもピッタリそうなのに、ラベロットはトレイラーにもストアページにも姿を表すこともない。一体どうしてなのだろう。
色々と非常に不可解で、ラベロットがエースバーンに似ている理由を説明する合理的な方法が見つからない。
ここで、ある記事を参考にして考え方を変えてみると違った視点が見えてくる。
「ラベロットはエースバーンに似せようとしたのではなく、何らかの理由で、ラベロットはエースバーンに似るしかなかった」のだと。
同じモチーフであれば似ることを回避するのは難しい
ラベロットが抱えることになってしまった問題の背景を想像するのに一番役立つ記事がこちらだと思うので、貼り付けて一部引用する。
その他、お腹の部分だけ明るい色になっているとか脚の先だけ色が切り替わっているとか鳥の足が黄色いとか羊の顔が黒いとか、これらも全て現実の生き物の特徴であってポケモン独自のものではない。
以下は私見だが、新規IPを作る時は今回のような騒ぎを避けるためだったりオリジナリティへのこだわりから既存IPにできるだけ似ないようにわざわざ手間をかける。
(※強調は原文ママ)
「ポケモンに似ないようにすることにリソースを割かなかっただけ」という言葉以上に端的にパルワールドのデザインを表した言葉を私は他に知らない。
ラベロットがエースバーンに似ている理由は単純に、「ウサギ+人型」というモチーフの組み合わせでキャラをデザインすると誰がどうやっても同じようなシルエットになってしまうという話だと考えてみると、設定がきちんと練り込まれているのに何故か見た目だけエースバーンに似ていることの納得がいく。
「うさぎとかめ」という童話があるくらい、ウサギというのは足が速い生き物として世界に認知されている。その特徴を使ってキャラクターを作ろうとすると、脚の長い別の生き物と組み合わせてデザインを考えるのが自然だろう。ウサギ単体では脚が短いためにパッと見で脚を強調出来ないからだ。そこでウサギと組み合わせる生物としてデザインに収まりやすいのはヒトだろう。
恐らくこのラベロットというキャラは設定が事前に先行しすぎてしまったのだ。「足が速いウサギというキャラでデザインを作ってください、設定はこうです、ボスなんで結構固まってます」とゲーム設計側がデザイナーに資料を渡してみたら、それをデザインに反映するとどうやってもエースバーンに似ることを回避できなくなっていた、というような過程が強く想像される。また、パルワールドの開発noteでは資金面や時間面で余裕がなかったことも語られている。ラベロットというキャラ1体が他の既存のキャラ(エースバーン)とシルエットが被ってしまったとしても、モチーフ上の必然から生まれる類似を回避するだけの余裕は既に時間的にも金銭的にも無く、そのままリリースするしかなかったのではないだろうか。
ボルトラの尻尾のようなあからさまに寄せているものと違って、ラベロットは「似せる気が微塵も無いキャラだったのに作ってみたら似てしまった」という不本意な経緯を辿ったと仮定すれば、トレイラーのような大々的に見えるところに置きたくなかった心理も察するのが容易になるだろう。
改めてラベロットを良く見ると、どうにかエースバーンと違うキャラにしようと苦心した跡が随所に伺える。
ウサギの身体的特徴でもあるラベロットの長い耳は、エースバーンと違ってエルフや植物を思わせる形状になっている。他にも首周りの毛が強調されていたり、それと同じ形の毛が膝周りに生えていたり、尻尾が強調されていたり、髪型も良く見ると全然違っていたり……。カラーリングが肌色に近いなのは、肉体派らしい「半裸」に見せたかったということなのだろうか?
何よりの苦心として、上に張った動画のように、ゲーム内のモーションを見るとマジで別物なわけだが、ここまで努力を尽くしてもシルエットがエースバーンと似ることはどうにも回避できなかったようだ。デザインというのは本当に難しい世界だ。
もちろん、「ウサギ+人型」というモチーフを保ちながらエースバーンとの差別化を怠ったのを「甘え」と呼ぶことは出来るかもしれないが、パルワールドは(少なくとも開発時点では)あくまでインディーだ。上等なことを求めるのは酷だし、何より、ポケモンだけが「ウサギ+人型」というデザインを使って良いという道理も絶対にない。それに、開発がラベロットというキャラクターを「パクリ」ではなく一つの存在として作ろうとしている努力がゲームから滲み出ているのは長々と書いてきた通りだ。
パルワールドが試みたポケモンとの差別化戦略
想像される過程はどうあれ、ラベロットはデザインこそエースバーンに似ているが、詳細に見るとエースバーンとは全く独立したキャラクターとして作ろうとしていたらしいということを見た。
このラベロットの例から、パルワールドというゲームが全体の方向性として「どの面で」「どうやって」ポケモンとの差別化を主に図っているのかを推し量ることが出来る。というのも、ラベロットに限らず、パルワールドの開発であるポケットペアには、一部キャラのデザインラインをポケモンと似ないようにするコストが無かったからだ。ラベロットと同じ施策がほとんど全てのパルに対してキッチリ行われている。
それは、パルワールドにおいては、キャラデザインだけでなく、図鑑設定・固有性能・専用モーション・登場エリアなどを気持ち悪いくらい練り込んで有機的にリンクさせることで個性を演出しようとしていることだ。言い換えれば、パルワールドはキャラクターの個性をキャラデザインではなくゲーム面に大きく依拠して確保している。だからプレイ前はポケモン風のキャラクターしか見えなかったパル達が、実際にプレイしてみるとゲーム内では全く違うように見えるのだ。外野がどれだけ騒ごうとゲーム体験さえ異なっていればそれで良いという発想。
後でもう一度触れることになるが、ポケモンにはデザインと対人性能以外に愛着を湧かせるシステムがほとんどない。パルワールドが目指したのは完全に真逆の方向性だ。ここがポケモンとの決定的な差別化になっている。
そしてこの発想は、単体でも新規性として十分過ぎるくらいの発明と言ってしまっていい発想だと思う。甚大なコストをかけて「絵の雰囲気がポケモンに似てしまう」という問題を回避しなくても、プレイ体験自体はポケモンと全く異なる独自性を持ったゲームが作れるという革命的な方法論が生まれたからだ。
具体的なゲーム面に依拠した個性の更なる例を見てみよう。
一匹一匹のキャラクターに更に個性を与える上で重要な役目を果たしているのが拠点での役割だ。
拠点というシステムによってキャラクターに更なる個性を持たせる
ペンタマ、シャーキッド、シーペントの3体の図鑑を貼った。拠点に配置したときに可能な作業の内容が右上に書かれている。
同じ水タイプでも、出来ることがそれぞれ違う。
ペンタマ:水やり(Lv1)と冷却が出来る。手作業と運搬も可能
シャーキッド:水やり(Lv2)が出来るが、冷却は出来ない。手作業と運搬も可能
シーペント:水やり(Lv2)しか出来ない。
それぞれに違うタイミングで出番があり、これがキャラクターの個性を彩るのに一役買っている。
クーラーボックスを使うには冷却が必要だから、水やりが遅くてもペンタマを配置する意味がある。逆に、クーラーボックスを使わないなら水やりが素早いシャーキッドの方が向いている。
では水やりしか出来ないシーペントには出番が無いのかというと、実はそんなことはない。水やり以外の仕事も出来るということは、言い換えれば余計な仕事を勝手にやって時間を無駄にするということでもある。器用貧乏という奴だ。破砕機や製粉機をひたすら回したいときはシーペントのような奴を配置した方が良い。
このゲームには本当の意味で「全てのパルに出番がある」。
拠点性能が被っているパルがいないとは言わないし、後半になればなるほど拠点性能の高い種族が手に入るため、「上位互換」のような概念があるのは確かだ。とはいえ、上位互換のラインを1個超えるには毎回5~10時間くらいかかる。一回配置したパルとは毎度毎度長い時間を過ごすことになる。「こいつは自分がまだ金属も採れなかった頃に畑に種を撒いてくれたんだよなあ」という綺麗な思い出が残るようになっている。
ゲームの進行度とそれに応じて手に入るパルの拠点性能の絶妙な物足りなさ、そしてゲーム自体の圧倒的ボリュームが、パルに愛着を育むための基盤と時間を確保してくれているのだ。
そして拠点での差別化を更に活かすのが、異常に作り込まれたモーションだ。自分の目でプレイして確かめてほしいのだが、拠点で動くパルのモーションは本当に活き活きとしていて見ているだけでも楽しい。私はンダコアラが本当に好き。同じ作業をやらせてもみんな全く違うように動くので本当に愛着が湧く。
このように、パルワールドはとにかくゲーム体験に依拠してパルの個性が強烈に感じられるよう設計されている。魅力的なデザインは重要だが、それだけではキャラの魅力が劣化ポケモンの域を出ない。他のポケモンライクのゲームと比較してパルワールドが抜きん出ているのは、全てのゲームシステムが一丸となってパルの魅力を引き立てるように設計されている点なのだ。
作業の強いキャラは後半ほど手に入る、が……
拠点性能とデザインラインの兼ね合いをもう少し深堀りすると、ここにもまた一つ巧妙な計算が見えてくる。
パルワールドの序盤には、かわいらしくやんちゃでクールな「ポケモンにいそう」なキャラクターが多いが、中盤から後半にかけてそのようなキャラクターは露骨に少なくなっていき、拠点にも大型のドッシリ構えたキャラが増えてくる。それでも後半のキャラほど拠点性能が高いので交代しないというわけにはいかない。
一応後半にもかわいい感じを保ったキャラ(クレメーオとかフォレーナとかミステリアとか)は存在するが、概して頭身が高い。
こうしてみると、パルワールドにおいては、「小さくてキャッチーでかわいらしいが、拠点性能は低い」「図体はでかいしキャッチーさはないが、拠点性能が高い」という具合で、見た目のキャッチーさと拠点性能がトレードオフになっているという観察が出来る。(一応書いておくと大きいやつらも私はみんな好きだ。方向性がかわいいとかキャッチーから離れていくだけで。)
「この初期メンバーは拠点性能は低かったけど、でもみんなかわいくてそれはそれで楽しかったよなあ、手探り感やわちゃわちゃ感があって、自分もまだプレイが初々しくて……」と思い出を美化させる心理的誘導がある。「弱い」キャラがただの下位互換に成り下がらないようにする極めて丁寧な工夫だ。
終盤になって拠点に大型のパルが増えてくると、「おうおう、なんか、拠点が凄く強そうな見た目になってきたな……。ゲーム、たしかに進んだんだな」という達成感も得られるようになっている。
似たような手法は様々なゲームで取り入れられているかとは思うが、こういう発想が簡単な工夫ほど実現するのは難しい。
全キャラに愛着を持たせるには、「平等」なんて無い方が良い
こうしてみると、全てのキャラクターに愛着を持たせる上では、別に全てのキャラが平等に扱われる必要はないという新しい軸の打ち出し方が見えてくる。それがパルワールドが採用した方法なのだ。
弱いキャラは弱くて良い。その代わり、序盤にたっぷり出番を用意してやる。
強いキャラは強くて良い。その代わり、見た目は大きく頭身も高く、ゲーム終盤っぽさを出す。
これはポケモンとは全く違った愛着の持たせ方だ。
これと比較してみるとポケモンは、全てのキャラを平等に扱おうとしまっていることの裏返しとして、いわゆる「不遇キャラ」を生み出してしまっている。
マホイップはかわいいが、脆い遅いで旅パで使うにも少し厳しい。対人は趣味パでもない限り絶対に無理だ。ニンフィアみたいにかわいくて強ければ最高だが、見方を変えれば、ポケモンはどんなにデザインが良くても性能が強くないと出番がほぼ全く失われてしまうゲームだと言える。ましてや、かわいくもないし強くもないポケモンのファンは非常に少ない。
なぜポケモンでこのようなことが起こってしまうかといえば、弱いキャラも強いキャラも平等にバトルフィールドに立たされるしか無いからだ。ゲーム開始直後から殿堂入り、対人環境に至るまで、ポケモンには「性能」から逃れる場が存在しない。(過去作には一応コンテストとかあったけど……。)
弱いキャラでも弱いなりにゲームのどこかのフェーズで活躍の機会がある、というような仕組みをポケモンは一切持っていない。それにも関わらず「弱い」キャラが大量に存在する。もちろんポケモンだから弱いキャラでもデザインは良いのだが……。
非常に悪い言い方をするのなら、ポケモンは、パルワールドに限らず他のゲームが様々な工夫を凝らしているのと違って、パッと見のデザインとキャラ性能以外に愛着を持たせる方法をほとんど実装できていない。性能が弱いキャラには挽回するチャンスも無い。
これと比べるとパルワールドが実装している愛着の仕組みは、ポケモンとは全く違う方向ではあるが、非常に上手くいっているとは言えないだろうか。
IPであるという都合から同じことがポケモンでは出来ない、そしてゲーフリの本当の凄さがどこにあるのか
パルワールドがどうやってパル一匹一匹の差別化を図っているかを軽く見てきた。じゃあポケモンも同じように「弱い」ポケモンが活躍出来る場を設けたり、愛着を湧かせるための新しい画期的なシステムを導入してみようか、と考えるとこれは絶対にできない。
ポケモンに常に立ちはだかっている壁が、「ポケモンは超長期的IPである」というどうしようもない現実である。
Temtemの孵化システムを紹介した時にも詳しく書いたが、ポケモンライクで成功しているゲームは大概、ポケモンにない要素を発明して「ポケモンより面白いゲームを
作る」という試みに成功している。
一方で、ポケモンのシステムは初代からほぼ変わっていない。第2世代で孵化、第3世代で特性が追加され、物理特殊の扱いも段階的に固まると、それ以降ゲームシステムが一切変化しなくなった。(他に書くことがあるとしたらフェアリータイプの追加くらいだろうか……。)メガシンカ、Zわざ、ダイマックス、テラスタルと、作品ごとの個性はあるものの、結局は全てバトルに関わるものでゲームの根本が何一つ変わっていない。悪い言い方をすれば、ポケモンは25年前から何一つ変わっていない古臭いゲームだと言ってしまうことも出来るだろう。
でも、これはゲームフリークが手を抜いているわけでもないし、ゲーフリが無能なわけでもない。
ポケモンの根幹に手を入れてゲーム性を奥深くし、「面白く」することは誰でもいくらでも出来るだろう。しかしながらそれをやってしまうと、「前作まではずっと面白かったのに、今作は急に難しくなっちゃって全然プレイ出来ないよ」という人間が大量に出てくる。他にも、「最後にプレイしたのはダイパで、あとはグッズくらいしか買ってないんだけど、SNSで話題だから久々にやってみよっかな」という気持ちで楽しみに新作を買った長年のユーザーもがっかりさせることになる。ポケモンというIPが崩壊する。「ゲームに慣れていない人間でもプレイ出来るくらいシステムが単純」という点こそがポケモンの強みなのだ。だからゲーフリはここを絶対に変更できない。
ゲームを開発する上で根本的な欠陥と言っても過言ではないレベルの足枷を嵌められておきながら、それでも毎作毎作「過去最高のポケモン」をキッチリ出してくるのがゲーフリの真に凄いところなのだ。
ポケモンは剣盾から急にストーリーの重厚さに舵を切って、SVにおいてその傾向は一層顕著になった。それまで実に20年近くも殿堂入りまでが対人に繰り出すまでの作業でしかなかったはずのゲームが、たったの数年で「ネタバレ注意」をつけずにはいられないような話の面白いゲームになった。こういうことが出来るからゲーフリは凄いのだ。
ゲーム部分の変更が効かなければ、どうにか他の面で体験の面白さを打ち出すしかない。そしてゲーフリはこの点で大成功している。剣盾もSVも、それぞれが間違いなく歴代最高のポケモン体験を更新した。きっと次の作品でも物凄い体験を味わえると私は信じているし楽しみにしている。
「ゲーフリは最近甘えているからパルワールドのヒットが喝を入れてくれるだろう」みたいな発言をパルワールド発売後に私はたくさん目にしたが、そういう奴らはなんもわかっちゃいない。ゲーフリはゲームシステムの変更すら出来ない中でゲームを面白くするという無理難題に真っ向から挑戦し、25年間全戦全勝を収め続けている。本当に凄い集団なのだ。
だが、しかし、それでもどうしたって、パルワールドやポケモンライクと比較したとき、純粋にゲーム的にどちらが面白いかと聞かれてしまったら、ポケモンに勝ち星が上がることは無いだろう。それはゲーフリが甘えているわけでも無能なわけでもない。単にポケモンの限界なのだ。
たとえば、パルワールドの拠点の例で見たような、弱いキャラにも活躍の機会を与える、という戦略について考えてみよう。もしこれをポケモンでやってしまうと何が起きるだろうか。ゲームが進むにつれて弱いポケモンを強いポケモンに更新していきつつ、だけど弱い奴らも良い思い出になったなぁ、みたいな感じのゲーム体験になるわけだが、ポケモン的にはこれは「使い捨て」にほかならないわけで、「つよいポケモン よわいポケモン そんなのひとのかって」というメッセージを前面に打ち出しているIPでは世界観と衝突してしまってとてもじゃないが採用できたもんじゃない。
ポケモンを他のゲームと比べても仕方がない。仕方がないのだ。
だけどこんな事情を汲んでくれるような人間は少ない。パルワールドの極めて巧みな仕組みを見て、ゲーフリの中の人達は今頃頭を抱えているだろう。「こんな化物と同じ土俵で次回作を比べられることになるのかよ」と。
ゲーフリが本気で心配になる株ポケの声明
最後に、株式会社ポケモンが出した声明がマジで心配という話をしてこの日記を終わりにしたい。
一応書いておくと、ゲームフリークと株式会社ポケモンは別の会社だ。ゲーフリは名前通りポケモンのゲーム開発をやっているが、株式会社ポケモンはアニメや映画やグッズ展開をはじめとしてポケモンというIPの全体的な管理を行っている。
ここで株式会社ポケモンが、パルワールドの騒動に触れて出してしまった声明を見てみよう:
https://corporate.pokemon.co.jp/media/news/detail/335.html
お客様から、2024年1月に発売された他社ゲームに関して、ポケモンに類似しているというご意見と、弊社が許諾したものかどうかを確認するお問い合わせを多数いただいております。弊社は同ゲームに対して、ポケモンのいかなる利用も許諾しておりません。
なお、ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です。
弊社はこれからもポケモン1匹1匹の個性を引き出し、その世界を大切に守り育てながら、ポケモンで世界をつなぐための取り組みを行ってまいります。
(※強調と赤字は私による)
「弊社はこれからもポケモン1匹1匹の個性を引き出し」という文言が、パルワールドへの当て擦りのように書かれている。これは本当に最悪で、完全に余計なことを言ったと思う。たとえポケモンとパルワールド双方への炎上を収めるためだとしても、こんなことだけはマジで書いちゃいけなかったと思う。
今日私が物凄い文量で語ってきた通り、パルワールドはパル一匹一匹の個性を出すことにゲームシステムの全てを懸けている。それはプレイしたら誰でも分かる。この株ポケの声明は明らかにエアプ野郎が書いている。それに、ポケモンには大量の不遇キャラが存在していて1匹1匹の個性が引き出されるような世界ではない。
マジで最悪なのは、この軽率な当て擦りが生んだプレッシャーの乗っかる先がゲームフリークだということだ。ほとんどの人間は株ポケとゲーフリの違いなんて知らないしゲームにしか興味がない。
ゲーフリはこんな声明を出すほどバカじゃない。何しろ「ゲームシステムを変えられない」という厳しい制約を受けながら25年も新作を出し続けてきた会社だ。現状のゲームシステムの上で1匹1匹の個性を引き出すのなんて無理なことくらいゲーフリが一番よく分かっているに決まっている。だいたい、ゲーフリは剣盾で互換切りを導入したばかりだ。
ゲーフリはゲームを作る会社だから、中の人達は今ごろパルワールドを真剣に研究しているはずだ。何がポケモンと違うのか、何が大ヒットを生んだのか、ありとあらゆる角度から、こんな駄文に書かれているのとは比較するのもおこがましいくらい綿密に解析しているはずだ。そして、パルワールドの採用した戦略が「ポケモン」というIPでは何一つ再現出来ないことも分かっているはずだ。ゲーフリの人間だったらパルワールドを当て擦るなんてバカな真似は絶対にしないだろう。それなのに株ポケが血気に逸った。
私は、パルワールドというゲームの完成度に感嘆させられると同時に、日本が世界に誇るゲーム開発集団であるゲームフリークの境遇が本当に不憫でならない。
ポケモンはポケモンで、他のゲームは他のゲーム。どんなタイトルだろうと凄いゲームは凄い。
誰もがそう言うだけの平和な世界が来たら良いのにと私は切に願う。