ブログを作っては消すのやめろ

ゲームの記録とか、稀に読んだものとか用です。

20160428 エミリー

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エミリー (集英社文庫) : 嶽本 野ばら : 本 : Amazon

200ページくらいの薄めの本です。短編が3本収録されています。

 

今日は昔話に心を奪われていました。なにか懐かしい気分が欲しかったのです。

この小説と出会ったのは、たしか5年前です。当時とてつもない影響を受けたのは覚えていました。読み直してみると、びっくりするくらい私の理想そのもののようで愕然とします。

1本目の短編「レディメイド」から、最初の段落を引用します:

 

 貴方の前に出ると、何時も私は妙にぎこちないのです。カットサロンに行って、シャンプーをされる時、お湯加減に逐一注文をつけるといって友人から驚嘆、というか呆れられるような主張の激しい私なのに、カフェーで空いている席にお座り下さいといわれれば、空いていない席に座る人はいないでしょとウェイトレスについ突っ込んでしまう口の過ぎる私なのに、貴方の姿を見ると、貴方に話し掛けられると、とたんに私は言葉を失ってしまうのです。貴方が悪いのです。だって、貴方は私以上にとても意地悪なのですから。貴方の話は常に暗号のよう。仕草すら謎めいている。コーヒーをいれて貰えるかなという貴方のごく日常の注文に、はいと応えてコーヒーをデスク迄運んでいくと、貴方は暫く私の指先をじっと真剣に見つめ、首を捻ったかと思うと可笑しそうに微笑み、そして事務的に有り難うといいます。貴方が何故に私の指先を凝視したのか、そしてその後の微笑みが何だったのか、私は気になって仕事に手がつけられません。

 

なんということでしょう。

ここまで少女的になるには頭のネジをどう外せばいいのでしょうか。蕩けそうなくらいに少女です。少女というか乙女ですね。

ルーミア厨さんはきっとこういう風になりたかったんです。

 

だけど、私が本当に惹かれるのは、文体よりも人生観の方です。生き様と言った方が近いのかもしれません。この作家の書く人物は、哀しいくらいに全員乙女です。生きる流儀が乙女なのです。

 

この小説の、この作家の世界の何が素晴らしいのか伝えようとしても、私の言葉はあまりに足りなくて、それならせめて好きな箇所を引用しようと奮闘してみるのですが、心をぎゅっと掴まれるような文章はあまりに多くて数えきれないくらいで、どんなに入力しても終わりが見えなくて、私はすぐに諦めてしまいました。

 

それなら一番好きなのを何個か引いてくれば良いだろう、そう思われるかもしれませんね。でも、そんなの出来ないんです。本当に何もかもが素晴らしくって、どの一文を選ばなくてもまるでわが身を切るようで、この中から何かを選ぶなんて、私、出来ないんです。

 

読み終わった私は消え入りたいような気分になりました。少女性を研ぎ澄ませるのを随分サボっていたと気付いて打ちひしがれています。

また一時期のように戻れるのかどうかは分かりません。だけど私は愛されたいのです。他ならない私自身の要求に適うために。

 

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一つだけ書いておかないといけないことがあります。

三本目の短編、私には、どちらの登場人物の気持ちも分かって、そして絶望的なくらいにどちらの感覚も分かりません。特にその彼が先輩にどうこうというくだりについてはマッジで分からないのです。私はそういう人間ではない。感情は、きっと凄く分かるのだけど。

この事実だけは詳らかにしておきたいのです。