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20161007 劇場版 聲の形 感想

12/10。端的に言って神。

見る前は120分しかないから重要なシーンとか色々カットされたり中途半端に終わったりするんだろうなぁと思ってたけど実際観てみるとそんな事はなく、物語上必要なものは全部揃えて重要なシーンはノーカットで物語もほぼ最後までちゃんと行って終わりました。映画監督ってすげー。

・本題

えーっと、原作が完結してからかなり経つのでネタバレとか気にしないでガンガン行きますけど、

この物語の最重要登場人物は植野です。植野こそがこの物語の主題主張メッセージテーゼのメッセンジャーであり絶対に欠かすことの出来ない存在です。

他の登場人物が尺の都合で何人消えようと構いませんが(まぁ消えませんでしたけど)、唯一絶対に消してはいけないモブキャラがいます。それこそが植野です。彼女こそがこの物語の意図の唯一の語り手だからです。そして観覧車のシーンはこの物語の必須要素です。

端的に言います。障害者は、特に学校という空間において、ひたすらに邪魔です。有害です。迷惑です。植野はその事をありのままにぶちまけます。そして更に、障害者が当然の如く起こるいじめに対して親や教師の圧力を用いて立派な"復讐"を果たしていること、障害者こそが健常者の気持ちを理解しようとしていないこと等などを並べ立て、聴覚障害者である西宮をひたすらに罵り続けます。それに対する西宮の返答が「私は私が嫌いです」「ごめんなさい」……。ここで植野が完全にブチ切れて「それでまた『ごめんなさい』だぁ?ふっざけんな!!結局アンタは、5年前から変わらない……。アンタは私達と話合ウ気ガネーンダヨ」と会話が終了します。障害者側の欺瞞と思慮の無さを何のオブラートも無く完全に看破するシーンです。

このシーンこそが『聲の形』という作品の肝であり、最重要のシーンだと私は思っています。実際に映画版では、本当に尺が足りないだろうに、このシーンだけは原作の会話を忠実になぞり時間をたっぷりつかってノーカットで上映されました。こんな会話、物語の進行上はどうでもいい会話であるにも関わらず、です。

単に映画としてまとめるだけならこんなシーンに尺を使う必要はなかった。だけど監督はそれをしなかった。何十何百のシーンを削り落としてもこのシーンだけは絶対にノーカットでやらなければならなかった。何故ならばこのシーンこそが聲の形であり、このシーンを落としたらそれはもはや聲の形では無いからです。

 

えーっと、念のため私の身の上を話しておきますと、私は発達障害で、小学5年生の時点で引きこもりになり、以後1日も通ってません。中学はどうにかなりましたが高校は中退しています。

小学生の頃、色んな施設をたらい回しにされました。カウンセラーの人達も施設の人達も、誰ひとりとして私が悪いとは言いませんでした。発達障害で周りに迷惑をかけてばかりで、その事を認識すら出来ない私が周りから避けられたりいじめられたりするのは当然の成り行きだと言ってくれる人はだれもいませんでした。そのせいで私はとてもとても多くの時間を無駄にしました。心の傷は取り返しがつかないほど酷くなりました。

小さい頃私がいじめられていたのは私が悪かったのかもしれない、と気付いたのは高校3年生の時です。しかし時既に遅く、対人恐怖症とPTSDを発症した私は高校を辞めました。

 

まぁそんな事はどうでも良いのですが、とにかくこの作品が素晴らしいのは、このようなことが、健常者(加害者)の目線からではなく、障害者(被害者)の目線から書かれていることです。西宮硝子は自分が周りに迷惑ばかりかけていることを負担に思っており、最終的に自殺を図ります。

このような障害者の話は本当にめったにありません。

私が幼いころ、「障害者と一緒に生きていこう!」といったような話を死ぬほど読まされました。しかしどの話もこの話も「理解しない周りが悪い」の一点張りで、障害者が周りにどれほど迷惑をかけるのか、その事にどれほど罪悪感を感じているのかについては一切触れてくれませんでした。

聲の形は違います。徹底的に障害者の立場で書かれています。自分が周りに迷惑をかける存在でしか無いこと、ノートを水中に投げ捨てられてさえ「ごめんなさい」と謝るほどの贖罪の念を抱えていること、"本物の"障害者の心の中を鋭く抉り出しています。

 

正直言って、劇場版には一切期待していませんでした。健常者の人間にこの物語のメッセージが伝わるわけがないと思っていたからです。でも実際には違いました。この映画監督は、尺が足りないにも関わらず植野の観覧車のシーンをノーカットにするくらいにこの原作のメッセージを正しく汲み取っている。ただの金稼ぎの興行作品でなく、原作に対する真摯な意図が感じられる。本当に恵まれた、これ以上の完成度は無い素晴らしい劇場化だったと思います。

原作ファンの方は、是非劇場でご覧になってください。